~ 当事者スタッフの思い ~
「障害者の命、
みんなでつくる未来」
内田 瞳(トミー)
1 大地震を経験し、人間の無力さを痛感する
阪神淡路大震災当時、寝ていた自分の身体が底から突き上げられ、身体が宙に浮いた。今まで味わったことのない恐怖感と共に、地響きのようなゴゴゴゴ―っという音や揺れの感覚を鮮明に覚えている。昨日まで住んでいた町の様子とは一変し、火事から逃れるために道なき道を家族と共に行き、避難生活も経験した。電柱や家屋の倒壊がひどく、右や左の方角もわからない。煙や粉塵も舞い、日中なのか夜なのかもわからないほど町が混乱していた。極寒の小雪がちらつく中、人の本性の両面をみた気がする。どうしようもなくたじろぎ、最後まで我を貫き横暴な振る舞いをする人。その一方で、着の身着のまま避難してきているのに、寒さをしのぐために片一方の靴下を分けてくれた人。以前に教科書で習ったような戦時中の風景と変わらないまちが目の前に広がっていた。家族全員が無事で、生き延びられたことは奇跡なのだと思う。
2 命あっての自立生活
私自身の被災経験を通して、今日という一日が明日も同じように訪れるとは限らないということを思い知った。そして大阪で暮らし始め、一人暮らしをスタートさせてからも、大災害への恐怖はおさまらずむしろ増していったように思う。そのような中で、自立生活夢宙センターと出会い、障害当事者として自立生活を始めた。地域においてロールモデルとなりながら、仲間の重度障害者の自立を応援していく活動にやり甲斐を感じて、今日に至る。
センター内で防災担当をしながら、ずっと歯がゆさを抱える日々だった。大阪の人たちは防災意識が低く、共に命を守っていこうと熱く語ってもなかなか響いている様子はない。日々の多様な活動に奔走する中、どうしても優先順位があがらない。防災訓練をしても、日頃から動きが不自由な私たちがエレベーター等を使える設定で訓練をしているので、あまり意味がないように思える。どうやって大阪の仲間たちを防災の取り組みに巻き込んでいけばいいのか試行錯誤の毎日がつづいていた。しかしこれだけは断言できる。一人ひとりの命があってこその自立生活だし、元神戸市民として私は伝えつづけなければいけない役割があるのだと。
3 地域力=防災力
防災力を高めていくには一体どうしたらいいのだろうと悩む日々の中で、夢宙センターとして地域交流に力を入れ始めている。豊かなまちにしていくために日頃から顔の見える関係性をつくることが大事だとよく言われているが、自立生活センターとして重度障害者の地域生活をどのように知ってもらうかを考えているところでもあった。地域に障害者が当たり前に存在しているということ、介助者と共に一人暮らしをしながら自分らしく生活しているということを、直に姿を見せながら伝えていく。しかし地域活動(お祭りやイベントなどの行事)や企画・運営会議にそもそも障害者が参画できていないことが多い。だからこそ私たち重度障害者の存在や生活の様子を全然知らないような多職種の人たちとも更につながっていきたいと考えるようになった。私たちは社会のお荷物ではなく、共に暮らすことができるまちづくりにつながるのだということも示していきたい。障害者の声をもっと地域力に活かしていけるように、私たちは自ら地域へ出向き、多様な人と出会っていく必要がある。超高齢社会の昨今、高齢者も様々な心身の生きづらさを感じている。そのような声を一緒に吸い上げ、社会に届けていくことは私たちにとって早急の課題なのだと思う。
4 若い世代と一緒にこれからの社会を
地域交流をすすめながら防災力を高める試みの中で、若い世代の人たちと出会い支え合いたいと考えるようになった。特に子どもたちは私たち障害者の存在を当たり前に素直に受け入れ、フランクにそして柔軟に接してくれる。これからの時代を担う若い人たちと一緒に、地域のイベントを盛り上げながら楽しいまちをつくっていきたいと本気で思う。体力・気力・想像力・アイディア力・柔軟性などいろいろな面で長けている人たちと一緒にいると、日頃からすごく楽しい。防災に関しても、堅苦しくまじめ一辺倒に計画するのではなく、楽しく前向きにユーモアを交えながら地域を耕し、みんなでステキな未来をつくっていきたい。
自分のことも仲間のことも好きで、自分たちのまちを大切に思えるような、そのような社会をこれからつくっていこう。そしてこの思いを次世代の人たちにつないでいけるよう、一人ひとりが主体性と責任を持とう。変化を恐れず、失敗を恐れず、いま実践していこう!
Lead on(リード オン)!!
注)Lead on!とはアメリカの障害者リーダーが障害者運動をする時に唱えたかけ声で、意味は「誰かに言われる前に、責任感をもって進め!自分を信じてみんなを巻き込んでいけ!」というもの。